争いは

つづく

日記14

8月9日

午前4時半頃 バイトのために家を出た 空はやや曇りがちで辺りはまだ夜の様相をたたえつつあった いつものように自転車に乗り、柵で仕切られ整理された芝生の間を加速する この先にはバイク置き場があり、両側をバイクに挟まれた細い通路を進むとそこがマンションの敷地の外へと通じているのである

マンションの敷地の外は、バイク置き場の側から見ると右手の方が死角となっている ゆえに、境界を仕切るゲートの近くにまで寄らなければその周辺の状況をはっきりと認識することは難しく、そこを通過するにあたって少しばかりの用心が必要となる とはいえ、どうせ細い小道であるから、人影にさえ注意していれば特に問題はないようなもので、しかもこのような時間帯では人に出くわすといったこともほとんどなかった

その日、バイク置き場の通路にさしかかったところで、ゲート(元々は扉がついていたようだが、現在は取り外されている)の向こう側、つまりはマンションの敷地の外にあたる場所に、なにか違和感を覚えた 地面にうごめく影が見えるのだ 人かと思ったが、どうも尋常ではない様子である 嫌な予感がした

けれども引き返すわけにもいかず、嫌な予感の当たらないことを祈りながら、ゆるめかけたペダルを踏み込み、勢いのままゲートを突っ切った 祈りながらも、実際そんなことはあり得ないということはわかっていた 直後、頭上を見上げてみると、すぐに影の正体がわかった 木だ マンションの敷地を取り囲むフェンスの内側に植えられた木の枝葉が吹き荒れる風に揺られていた

な~〜〜んだ! ホッとして正面に向き直り、再び強くペダルを踏み込んだ

4漕ぎくらいしたところで、ふと、周囲の様子から、揺れているのがあの木だけだったことに気がついた

 

バイト先に到着した 来るまでに何人かとすれ違ったこともあり安心したのか、着く頃にはすっかり何事もなかったかのような心持ちだった

着替えとパートさんへの挨拶、ワースケのチェックを急いで済ませ、業務開始まで少しの暇を持て余す 四方をパートさんに囲まれる中スマホを見るのが憚られ、なんとなく自分の足元に目をやった 靴が汚れている なぜか、右の靴だけにヘドロのような物質がベッタリと付着している つま先のあたりがなんとも不快に濡れつやめいている なんだこれは? 意味がわからなかった

家から履いてきて、途中ぬかるみに入った記憶もない わりかし新しい汚れに見えるのに、いつどこでそれがついたのかまったく見当がつかない

あんまり気味が悪いので、誰にも気づかれないよう職場の至る所に足をなすりつけた